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“勘違い男”続出? 耳かき店の「ひざまくらマジック」は常連客をストーカーに変えた
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090809-00000517-san-soci

“勘違い男”続出? 耳かき店の「ひざまくらマジック」は常連客をストーカーに変えた

この事件の場合、「ひざフェチ」か「耳フェチ」かと言う問題が残る。


 東京・秋葉原の耳かき店の常連客だった男が、売れっ子店員の女性と祖母を殺傷した事件は、男が女性に交際を断られ、店への出入りが禁止されてから、付きまとい行為を繰り返すようになっていた。出会いの場となった耳かき店は「癒し」を売りに急増、ひざまくらで耳かきをしてくれる恋人感覚のサービスに「好かれている」と勘違いする常連客も後を絶たないという。風俗店とは違って性的サービスがないことが、客を欲求不満にさせてストーカー行為に走らせる-。業界関係者からは、そんな声も出ているのだが…。

 ■「オレがやった」…両手を突き出した“ヨシカワ”

 畳敷き3畳の部屋、やや落とされた照明。浴衣姿の女性がひざまくらをしながら、耳をもみほぐし、耳かきをそっと入れてくる。目にはタオルがかけられ、女性は「痛くないですか」と気遣いながら、耳かきで耳たぶや中をなでていく。

 秋葉原の一角にある耳かき店。30分コースの料金は2700円で、耳つぼマッサージ、耳そうじ、頭部などのマッサージの順番で行う。「極上の癒し」を売りに、女子大生ら若い「耳かき小町」たちが耳そうじをしてくれるとあって、中年男性らも足しげく通っている。

 この店にかつて「ヨシカワ」と名乗る男が、売れっ子だった江尻美保さん(21)のもとに毎週のように通い詰めていた。利用時間が5時間を超えることも度々で、月に30万円以上を使ったとされる。

 「これだけ通っているんだ。付き合ってよ」

 今年4月、江尻さんに執拗(しつよう)に交際を迫って断られ、ヨシカワは店への出入りが禁止になっていた。

 ヨシカワは8月3日朝、複数の刃物とハンマーをビジネスバッグに隠し持ち、東京・西新橋にある江尻さんの家の前に立っていた。ヨシカワは無施錠の玄関から家の中に侵入し、その直後、「ぎゃー」という悲鳴が響き渡った。

 「包丁を持った男がいて、女性とケンカしている。けが人がいる!」

 110番通報で警察官が駆け付けたとき、美保さんが2階の廊下で、美保さんの祖母、鈴木芳江さん(78)が1階居間で血だらけになって倒れていた。鈴木さんは死亡、美保さんも重体となった。

 1階で立ちつくしていたヨシカワの顔は無表情だった。その顔や洋服、両手に返り血がべっとりついていた。

 「おまえがやったのか」

 駆けつけた警察官に問われ、ヨシカワは「オレが2人をやった」とだけ答えた。そして、手錠をはめてくれと言わんばかりに、両手を警察官に突き出した。

 ■「こんなに尽くしているのに」…“出禁”解除されず愛情が憎悪に

 警視庁愛宕署によると、ヨシカワは偽名で、本名は林貢二容疑者(41)。千葉市内の団地に住む独身で、配電関連の会社に勤務していた。

 捜査関係者によると、林容疑者はまず、1階居間の鈴木さんに美保さんに会わせるよう要求。拒んだ鈴木さんに対して「話にならん」と激怒して刺し、2階に上がって美保さんを襲撃した。

 美保さんは寝間着姿で、現場の状況から、ベッドで寝ていたところを襲われ廊下まで追い回されたようだ。2人には首を中心に複数の刺し傷があった。ハンマーにも血がついており、鈴木さんが頭部を複数回にわたって殴打されたとみられる。

 周到な準備と、執拗な襲い方から浮かぶ激しい憎悪。林容疑者を突き動かしたのは「耳かき」への執念だったという。

 「美保さんに耳かきをされると心が癒された。美保さんに謝り、また店に通えるよう頼みたかった。思いを遂げられなかったら殺そうと思った」

 そう供述しているという林容疑者は昨年2月ごろから店に通い始め、美保さんを指名し続けた。4月に出入り禁止なった後、店から帰宅する美保さんをつけて、自宅前などで待ち伏せし、付きまといを繰り返すようになった。

 事件の約2週間前には美保さんに謝罪したが、出禁は解除されず、その翌日にはメールが受信拒否になっていた。自宅近くで後ろから肩をたたいたときには、近くのコンビニエンスストアに駆け込まれて110番通報された。

 美保さんに避けられている現実を認めたくなかったのだろう。事件2日前、再び自宅近くで待ち伏せしたが、美保さんが店関係者に付き添われて帰宅したため接触できず、感情が爆発した。供述によれば、林容疑者の心中はこうだ。

 「わざわざ千葉から通い、こんなに尽くしているのに冷たくされた。愛情が憎しみに変わった」

 ■個室でひざまくら…性的サービスで摘発も

 林容疑者がのめり込んだ耳かき専門店は、1年ほど前から秋葉原を中心に急激にはやりだしたとされる。

 その理由として「癒し」を挙げるのは風俗ライターの村上行夫氏だ。

 「キャバクラの女性は派手でハキハキしているから、遊び慣れていない男性は物おじしてしまい、女性のご機嫌取りで終わってしまう。耳かき店で働く子はクラスの優等生みたいに優しく振る舞うから、リラックスできる。アキバ系の男性も気軽に足を運べるわけです」

 その上、2人きりの個室で、ひざまくらをしてくれる。村上氏は「女性経験の少ない男性は、それだけで自分に気があると勘違いして告白してしまう」と話す。

 美保さんと同じ店で働く20代の女性も過去に3回、告白されたという。「仕事に専念したい」と断ったが、なかには納得できずに何度も通って交際を迫る男性もいたという。

 「“ひざまくらマジック”じゃないですか? 普通、恋人じゃないとひざまくらをしないでしょ。それで思い込みをしてしまう人がいるのかもしれない」

 しかし、たとえ恋人のような雰囲気を味わえても、性的なサービスはご法度。好かれていると勘違いした客が、この“寸止め状況”に我慢できず暴走するケースが絶えないというのだ。

 「胸や太ももを触ったり、ひざまくらされながらセクハラ発言をしたりするようですね」(村上氏)。

 最初は30分と短いコースだが、「ほかの男と会わせたくない」という独占欲に駆られ、5時間以上など長時間で利用する常連客も少なくないという。

 インターネットの掲示板には「性的な関係を持てた」などと真偽不明の情報が飛び交い、性的サービスを売りにする耳かき店も出現するようになった。6月にはさいたま市内の「耳かき一発」が性的なサービスを行ったとして、耳かき店では初めて風営法違反で摘発された。

 村上氏によると、耳かき店従業員の平均時給は約2700円。女子大生ら若い女性が気軽にアルバイト感覚で働いている。

 「女性は金でサービスを提供するから、リスクが少ないと考えているかもしれない。だが、客が支払いをサービスの対価ではなく『尽くす』ことだと考え、『これだけ尽くしたから気持ちが通じるはず』とストーカーになる恐れがある」

 聖学院大学の作田明客員教授(犯罪心理学)は、耳かき店の“業態”に潜む危うさを、そう指摘する。村上氏も「寸止め状況だからこそ、男の行為がエスカレートする危険性が高い」と警鐘を鳴らすのだ。

 ■孫思いの祖母…「生き方伝えたい」と自費出版 

 美保さんはテレビ番組に取り上げられるほどの売れっ子だった。1日10時間、週6日間働いていたといい、番組で月収は「68万円」と答えていた。

 ブログを頻繁に更新して、書き込みに対しても丁寧に答えているが、その文体からは誠実さが伝わってくる。

 〈やっぱり帰る時はみんなツラかったりすると思うけど、また来れると思えば少しは楽になるんじゃないですかね♪〉

 〈勘違いさせちゃうコトばかりで本当にスイマセン〉

 「本当、明るくて、優しい人でしたよ」。高校時代の交際相手だった男性(20)は、悲しみをこらえながら取材に口を開いた。6月下旬、昼ご飯を一緒に食べているときに林容疑者のことを相談された。

 「5月から常連さんに付きまとわれている」

 「店から家までつけられている」

 男性は美保さんの困り果てた表情を覚えている。

 最後に会ったのは7月末だった。「『最近は来ていない』と話していたのに…」

 亡くなった祖母の鈴木さんは、3年ほど前から地元の高齢者サークルに参加し、「北のアカシア」を好んで歌っていた。手芸や油絵が得意と多才で、新橋について随筆や俳句をまとめた「新橋日和」も自費出版していた。

 知人らによると、出版理由について「子供や孫に残してあげられるものは何もない。本で生き方や心の中を伝えたかった」と話し、「孫が出版を喜んでくれたの」と顔をほころばせていたという。

 孫思いの鈴木さんは林容疑者から美保さんを守ろうとして面会を拒み、凶刃に命を奪われた。サークル仲間だった女性(65)は、こう言って苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 「いつもニコニコニコ笑う神様みたいな女性だった。犯人は絶対許せない。鈴木さんを返して…」

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